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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)671号 判決

控訴人

関西新空港・観測基地絶対反対二・二六集会実行委員会

右代表者実行委員長

本庄孝

控訴人

泉州地方労働組合連合会

右代表者執行委員長

本庄孝

右両名訴訟代理人

井上二郎

被控訴人

泉南市

右代表者市長

稲留照雄

右訴訟代理人

谷池洋

阿部甚吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

〈前略〉

(控訴人らの主張補足)

一  請求原因二(三)(本件処分の違法性)の補足

1 本件処分に付せられた理由が原判決別紙「本件処分の理由」(以下、理由書という。)のとおりであることは認めるが、真の理由は、控訴委員会の観測基地設置反対の態度が被控訴人の方針に反する点に尽き、理由書の一前段を除くその余の記載が本件処分の理由であり得ないことは、次の諸点から明らかである。

(一) 控訴委員会は、言論表現・団結活動によりその主張の実現を目指し、そのためには市民の共鳴と信頼を得ることが不可欠であるとの認識の下に活動するものであつて、規律なき団体ではない。

なお、成田空港においてその開港をめぐり種々の衝突が起きたと報道された状況下ではあつたが、泉南市内において、「観測塔実力阻止」等のポスターが貼られ、成田闘争の支援団体がビラを配り、泉州沖に空港をつくらせない住民連絡会が観測基地着工阻止集会への参加を呼びかけていたとしても、直ちに、控訴委員会が規律なき団体として、本件広場における集会において不穏の事態が生ずることが予想されるわけがない。

(二) 控訴委員会が昭和五二年(以下、昭和五二年の場合には年の記載を省略する。)四月二五日被控訴人市立鳴滝解放会館を午後五時から同一〇時までの予定で借受け、同所で観測塔設置問題に関し運輸省係官と話合いをしたが、予定の時刻を超過して同所を使用したことは事実であるが、右時間延長については、交渉両当事者の合意と同館長の諒解下に円満になされたものであつて、館側の制止を無視して強行したものではない。この種交渉においては、通常その進展状況により予定時間を超えることはありうるけれども、本件申請にかかる集会にはかような時間延長は予想されないから、右会館使用における事態は本件広場使用拒否の理由とはなり得ない。

(三) 本件申請書には、集会開催月日の誤記があつたほか、集会終了の予定時刻、参加予定者数につき具体的記載もなく、泉南市役所庁舎管理規則(昭和四八年三月一日規則第二号、以下、本件規則という。)の様式第一号からみて不備のあつたことは事実であるが、右記載を欠くことが本件申請の許否を決するにつき重要なことであるならば、被控訴人市当局は本件申請書を提出した控訴委員会代表者で被控訴人の本庁舎に勤務する職員でもある竹中寿和に照会させれば足りるものであるのに、かえつて、五月二一日午前、本件処分書交付に先立ち右記載ミスに気付いた竹中の補正申入れを聞こうともしなかつた。

(四) 本件広場は昭和四八年五月一日被控訴人の職員組合等によつて組織されたメーデー実行委員会がメーデー集会に使用したことがあるが、控訴委員会も同職員組合がその運営の中心をなす事務局団体の一つであり、本部を同職員組合内におき、代表者中一名は同職員組合の役員が就任する団体であつて、本件申請にかかる集会と前記メーデーとでは、主催者・参加者の第三者性等において何らの差異もない。

(五) 泉南市は、航空審議会の答申により空港予定地として適当とされた海上位置から至近の場所にあり観測(親)基地も同市内に設置されることが予定されていた。そこで、控訴委員会は観測基地建設反対を同市民に訴える必要を痛感し、右建設着工が目前に予想された五月三〇日に集会を計画したが、同市には本件広場以外にかような集会に適する場所はなかつたので、本件広場における本件申請にかかる集会は、控訴委員会にとつて極めて重大な意義をもつ言論・表現・集会の憲法上の権利の行使であるといわなければならない。

(六) 一方、被控訴人にとつては、右集会がなされたとしても庁舎の保全はもとより、執務時間終了後のことであつて、庁舎における公務の正常な執行が妨げられる虞も全くなく、強いていえば、付近住民にマイクの声が聞こえることぐらいであつて、さほど重大なことではない。

(七) 市長は、本件処分当時には、本件広場につき使用申込があれば、拒否すべき理由のない限り誰にでも貸すこととしていたが、本件処分後、本件規則を急拠変更して本件広場を第三者に使用させないこととした。

(八) 市長は、被控訴人ないし同市議会が設置を認めた観測基地に反対するような団体に公共施設を貸すべきではないとの意向から、解放会館などの被控訴人市の公共施設の使用を許可しない方針を決め、さらに、不当にも国に対しても右反対派には国有地を集会のため使用させないよう申入れた。

2(一) 本件規則は、六条ないし一〇条から明らかなように庁舎等の使用につき住民の権利義務を定めた法規としての性質をも有するところ、七条は住民が本件広場をマイク等の使用を伴う集会のため使用することをも予定し、一条の目的を阻害せず、六条に牴触しない限り、住民は本件広場を集会のために使用する権利を有すると解される。

そして、集会の自由が憲法上の権利であることからすれば、市長は本件広場使用の申請の許否につき裁量権を行使するについては、本件規則に拘束され、当該申請にかかる使用により庁舎の保全と庁舎における公務の正常な執行が妨げられる虞が明白かつ具体的に現存する場合に限り使用を拒みうるに過ぎず、これに関連のない事項を考慮することは許されないところ、右見地からすれば、理由書の記載は、いずれも拒否の理由として成立ち得ない。

(二) 仮に、本件規則が行政の内部規則に過ぎないとしても、その裁量基準は(一)に述べたところと何ら変わりはないから、いずれにしても、本件処分は裁量権を逸脱したものである。

(三) 加えて、本件処分は、申請書の些細なミス等を捉え(前記1(三))、控訴委員会を根拠なく規律なき団体とし(同(一)、(二))、また観測基地反対者排除を目的とする(同(八)など)ものであつて、その態様・目的において不公正であり、さらに前記1(五)、(六)の点に鑑み行政目的との合理的均衡を著しく欠くものであるから、裁量権の濫用であることは明らかである。

二  被控訴人は、本件処分によつて、控訴人らの本件広場を使用しうる利益を侵害し、ひいては、控訴人らの憲法で保障された集会・言論の自由を侵害したものである。

(被控訴人の答弁)

一  控訴人らの前記主張一1(二)のうち、控訴委員会が四月二五日被控訴人市立鳴滝解放会館を年後五時から午後一〇時までの予定で借受け、同所で運輸省係官と交渉し、予定時間を超過して同所を使用したことは認める。

控訴委員会は、右予定時間を遵守する意思がなく、右会館の使用は、終了予定時刻を二時間近くも超過し、かつ、その間館長から再三にわたる中止要請があつたのにもかかわらず続けられたものである。

かような団体から、使用時間、使用人数の記載を欠いた庁舎使用申込がなされた場合、その記載の欠如自体を申込許否処分に際し考慮するのは当然である。

二  同一1(三)の事実のうち、本件申請書に控訴人ら主張のような記載不備(誤記及び無記載)があつたこと及び控訴委員会代表者竹中寿和から五月二一日午前、集会予定日の誤記につき訂正申出のあつたことは認める。

被控訴人は、右訂正申出当時既に、控訴委員会の指定どおり同日午前中に回答すべく、回答書を作成していたものであつて、右訂正申出があつたからといつて本件処分の効力に消長を来たすいわれはない。

(証拠)〈省略〉

理由

一控訴人らはいずれも民訴法四六条により当事者能力を有する社団と認められるものであつて、その理由は、原判決理由一に説示されたとおりであるからこれを引用する。

二請求原因二(一)の事実及び本件処分に付せられた理由が理由書のとおりであることは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、当時被控訴人の市長及び市議会は、関西新空港建設につき観測基地を設置することに賛成しており、右賛成の立場から市長は観測基地反対の団体に公共施設等を使用させない方針を定めていたことが認められ、右事実と前記争いのない理由書一前段の記載からすれば、本件申請をなした控訴委員会ないし本件申請にかかる集会の目的が前記賛成の立場と相反する点が、市長において本件処分をした重要な動機の一つとなつていると認めるべきである。〈証拠判断略〉

地方公共団体の長たる市長がその管理する本件広場の使用申請の許否を決するにつき特段の事情のない限り、申請にかかる集会の主催者・目的により差別することは相当といえず、本件においてかような差別の合理性はこれを認めることができない。

三しかしながら、本件広場が被控訴人の庁舎敷地の一部であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、本件広場は被控訴人の職員及び来庁者の駐車場として使用されており、これが集会のために使用されるのはメーデー集会等極めて希であることが認められる。

以上によれば、本件広場は、被控訴人の行政財産中、公用に供せられるもの(地方自治法二三八条三項)に該当し、同法二四四条にいう公の施設とはいうことができない。

控訴人らは、本件規則一条の目的を阻害せず、六条に牴触しない限り、住民は本件広場を集会のために使用する権利を有する旨主張するけれども、本件規則の趣旨をかように解すべきいわれはなく、その他控訴委員会が本件広場を使用しうべき権利ないし法律上保護される利益が存すると認めるに足りる証拠はない。

四してみると、市長が本件申請を拒み、控訴委員会の本件広場の使用を許さなかつたからといつて、控訴委員会の本件広場を使用しうる利益を侵害したものとはいうことができない。

したがつて、かかる利益の侵害を前提とする控訴人らの本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当として棄却すべきである。

五よつて、右と結論を同じくする原判決は理由を異にするが結局相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(仲西二郎 高山晨 大出晃之)

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